はぐれDJ道

2009年12月20日

第2回「YUMIKO / ANIME」

ユミコとの出会い

1998年夏。渋谷東急ハンズへの向かいへと渡りシスコハウス店へと私は向かった。
レコードを購入するためだ。店頭に出ているフライヤー(イベントのチラシ)を軽くチェックし、
店内に入る。クーラーがあって涼しい。その時何かが私の目に入った。

レコードだ。




1220_01.jpg
YUMIKO / ANIMEのレコード(表)





面出しで置かれているそのレコードは、周りの品と比べ一際異彩を放っていた。
「YUMIKO」「ANIME」。そしてこの女のアニメ絵。科学技術館の地図。
これを見て私は確信した。「外国産だ」
今は亡きシスコハウス店は主に外国のレコードを輸入していたからだ。

「YUMIKO」だと思われるこの女のアニメ絵は根拠は無いが日本文化に憧れを持つ外国人が描いたものだろう。
科学技術館の地図も日本語が分からない外国人が「グッド」とか言いながら切り抜き貼り付けたものであろう。
「ANIME」の文字は?わからない。「アニメ」が好きだと言う事か?


周りを見渡し、素早くそのレコードを手に取った。最後の一枚だった。
裏面を見る。




1220_02.jpg
YUMIKO / ANIMEのレコード(裏)





通常こういったレコードに歌詞が記載されている事は少ないのだが、歌モノらしく歌詞と、「YUMIKO」にまつわるらしいいくつかのイラストが描かれている。
左側には「Home」「Videogame」「Car」、右側には「Diary」「Cat」「Boyfriend」
得も言われぬ安いアイテムが並んでいる。「Car」って言われても。

「ANIME」はどうやらアーティスト名らしくイタリアの「TIME」という大手レーベルから出ているものであると判別できた。

今考えると信じられない事だが当時のレコード屋は視聴できないものが多かった。
女性店員にどういったレコードなのか訪ねる。

店員はレコードを一瞥した後冷たくこう言い放った。

「わかりません。」

昼の間は、私は女に銃を突きつけない。

が、この時はコルトを突きつけそうになった。

ぐっと我慢してレコードを購入し、小田急線に乗り一時間かけて本厚木の自宅へと帰る。




海外産ナードハウス

折しも1997年、攻殻機動隊「GHOST IN THE SHELL」のゲーム盤サントラでテクノなコンピレーションが発売され、石野卓球、デリック・メイといった有名なテクノアーティストが参加、日本の「メカ」「アニメ」「オタク」そういったキーワードが世界的に割と有名になった。
「YUMIKO」の歌詞も正にそういったものだった。
英語を解さない諸君の為にここに私の意訳を載せたい。




こんにちは、わたしユミコ
二次元の女よ
私の愛はオタクのもの
私の世界に来て

あなたの番号教えて
あなたはわたしの先生
血液型はO型よ
アメコミじゃないわ

ロリコン ロリコン オッオー
ロリコン ロリコン オッオー
わたしはあなたのマンガ
わたし本当にエッチマンガ

こんにちは、わたしユミコ
二次元の女よ
私の愛はオタクのもの
私の世界に来て

こんにちは、わたしユミコ
二次元の女よ
ブッキョウ楽しい
あなたのアニメスターになるわ

わたしのスクリーントーンを見て
わたしのメカを見て
あなたのGペン感じるわ

※以下繰り返し
我々がイタリア人に抱く、好色、種馬、パスタといった偏見と同様にGペン、仏教、アニメといったオタク以前の安易な日本のイメージが繰り返される。
一体何なんだと思いながら、しかし私はオラワクワクしてきたぞ感を禁じえなかった。

針を落とす。

オリエンタルなメロディに清々しい女性の声。
「ハローマイネームイズユミコ」
「ロリコンロリコン」

言葉に起こすと恥ずかしい以外の何者でもない曲だがそこには真の歌モノアンセム(凄く盛り上がる曲の事)があった。
本物のレコードは針を落とした瞬間に感覚でわかる。
日曜日、日が差す教会へとCarでBoyfriendと共にやってきたYUMIKOが歌い上げる様が私の脳裏に浮かんだ。









この曲は以降10年間私の決め曲になり、度々mixcdにも収録してきた。
日本に何枚入荷されていたのかはわからないが、私以外に日本でこのレコードを持っているDJは現在の所一人しか知らない。

イタリアの日本オタク(かどうかはわからない)が、そよ風の気まぐれで作った爽やかナードハウスが日本に輸入され、ある日本人DJがおもしろがって「ユミコ!」「ロリコン!」と叫びながらプレイし続けたのだ。




10年間、間違っていた

約10年後、2009年、ある日一通のメールが私に届く。
女からか。違った。男だ。

「イオさんは33回転でかけてたけど本当は45回転らしいです」

しばらくYUMIKOと逢ってなかった私は急いでレコード棚を探す。
見つける。そして盤面をよく見る。45RPMとの表記がある。

レコードには2種類の速度がある。
私は10年間、45回転(174bpm)の曲を33回転(129bpm)、つまり約0.7倍の速度でプレイしていたのだ。

以下が本来のbpmのYUMIKOである。








DJには曲を自由にプレイする権利がある。
そこにグルーヴがあり、それがお客にとって、DJにとって気持ちよければどんな速度でも、音でも問題は無いと私は信じている。
これからも遅い回転数でかけ続けるだろう。
諸君はどちらの速度が良い曲だと感じるであろうか?

最後に原曲の歌詞全文を掲載する。




HELLO, MY NAME IS YUMIKO
A TWO-DIMENSIONAL GIRL
MY KIND OF LOVE IS FOR OTAKU
COME INTO MOOK OF MY WORLD

GIVE ME YOUR PHONECARD
YOU'LL BE MY SENSEI
I'M BLOOD TYPE ZERO
NOT AMECOMI

LOLICOM LOLICOM OH OH
LOLICOM LOLICOM OH OH
I AM YOUR MANGA
I'M REALLY H-MANGA

HELLO,MY NAME IS YUMIKO
A TWO-DIMENSIONAL GIRL
MY KIND OF LOVE IS FOR OTAKU
COME INTO OF MY WORLD

HELLO, MY NAME IS YUMIKO
A TWO-DIMENSIONAL GIRL
IF YOU WILL BE MY PLEASURE BUKYOU
I'LL BE YOUR ANIME STAR

LOOK AT MY SCREETONE
LOOK AT MY MECHA
I'D FELL YOUR G-PEN
WATCH HOW I'LL DO IT

LOLICOM LOLICOM OH OH
LOLICOM LOLICOM OH OH
I AM YOUR MANGA
I'M REALLY H-MANGA

HELLO, MY NAME IS YUMIKO
A TWO-DIMENSIONAL GIRL
MY KIND OF LOVE IS FOR OTAKU
COME INTO MOOK OF MY WORLD

HELLO, MY NAME IS YUMIKO
A TWO-DIMENSIONAL GIRL
IF YOU WILL BE MY PLEASURE BUKYOU
I'LL BE YOUR ANIME STAR
ビート・ゴーズ・オン


(この記事は大体事実を元にしたフィクションです。もっと正しい訳をつけてくれる方を募集します)




posted by DJイオ at 00:00| 第1回〜第25回

2009年12月05日

第1回「レオパルドン / 猛犬EP」

火災発生火災発生

1998年、六本木のクラブの地下一階。私は悪友とあてもなく音楽と酒、そして女、ドラッグとかを求めて遊びに来ていた。
フロアではハウスみたいなのが流れ、荒くれ者達が踊っていた。週末も午前二時を過ぎると満員になる。お馴染みの乱痴気騒ぎが始まる。

「あのスケ、いいんじゃないか?」

悪友が俺に囁いた。

「よし、いくか」

その瞬間、前ぶれなくフロアに警報のベルが流れた。

「火災発生火災発生、只今一階女子トイレで火災が発生しました。お客様は落ち着いて、フロアよりご退場下さい。」

当然、フロアはパニックに陥る。ビールを投げ捨てて出ようとする女、どさくさにまぎれて女のパイを揉もうとする男。
私はといえば勿論パニック状態に陥り、裸でワセリンを塗ってツヤツヤした男を押しのけてクラブから脱出ようとしていた。

その時フロアにアナウンスが流れた。

「--嘘です。」

それがレオパルドンとの出会いだった。




Midnight Dancer

曲はシンプルなシカゴハウスのトラックに警報、アナウンス、謎の親父の説教が載ったものだった。
火事で無いと安心した客は喜び、親父の説教に合わせて踊った。

私はつかつかとDJの前に歩み寄り、ブースの中を覗き込んだ。
しかしレコードがグルグルと周っており、文字は読み取れなかった。

「今の盤(トラックの事)は何だ?教えないと俺のコルトが火を吹くぜ。」

こめかみに銃をつきつけられ、坊主頭の気弱そうなDJが答えた。

「レオパルドン / Midnight Dancer」

「もっとこいつの曲はないのか?」

「・・・この店に行ってみな。」

DJから受け取った紙切れには「shop33」と書いてあった。




shop33

翌日、紙切れを頼りに吉祥寺の街へと辿りついた私は、通行人に聞きながらなんとかその場所へと辿りついた。
うらぶれたビルの二階に上がると白を基調とした店内に落ち着いたビートが流れていた。moodymann / oceansだ。

店内にはクラブキッズ向けの服が置かれ、その奥にカウンターがあった。
ショートカットで澄んだ瞳のスケがそこには立っていた。

私は聞いた。

「レオパルドンの曲はありますか?」

昼の間は、私は女に銃を突きつけない。

彼女が指をさした方向には様々なレコード、CDが存在した。
謎のCDR群、そして得体の知れないアナログ(レコードの事)。

探してみると昨日のアナログはなく、猛犬EPというアナログが置いてあった。
可愛いワンちゃんの写真が盤面に写っている。
そこに収録されている4曲を視聴して私は衝撃を受けた。

スパルタンX、ランバダ、フランダースの犬、そしてクラブカルチャーを茶化した演説。
ハウス、テクノのビートに載せて自分の好きなものを好き放題にサンプリングしている。
それらは明らかに不法であり、当時私が買っていたテクノとかとは違う何かが溢れていた。

「本気で聴いていたやつ、嘘に決まってるだろ!気持ち悪いんじゃぁぁ!ヴェェェェ!」

猛犬EP「Spiritual Dancer 〜 TECHNO or DIE!!」の最後の部分まで聞き終えた後、慎重に針を上げ、そのヴァイナル(レコードの事)をレジに持っていき購入した。

「また、くるよ。」

吉祥寺の街は空気が乾き、空が見えていた。梅雨があがったのだ。
これから何かが始まるかもしれない。
しかしその時の私には「それ」が何かが分かっていなかったのだ。
ビート・ゴーズ・オン


(この記事は少し事実を元にしたフィクションです)



posted by DJイオ at 00:00| 第1回〜第25回